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 アイコン Permanenza di amore〜愛の行方〜

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   遺書を書くきっかけになった、12年7月8日のものすごく悲しい夢への反発で書いた小説です。

 ライン ライン

ある日の放課後―――。


「十代目、今日も一日おつかれさまでした!一緒に帰りましょう〜!」

「あ、うん。ちょっと待ってね、もう終わるから…」

「はいっ!」


帰り支度をしていると獄寺くんがやってきて、いつも通り、ふたり一緒に家路に着く。


獄寺くんと衝撃的な出会いをしてから一年。

俺たちは人目を避けてお互いにふれ合う、秘密の関係になった。

いわゆるその、恋人、というものだ。

あれからもう2カ月も経つのに、いまだに相手のことを想うと、すごくぎくしゃくしてしまう。


――はじめてのちゃんとした恋。

はじめての恋人。


手に触れるだけで震える心。

きっと俺はきみのことを、自分が考えている以上に、君が想ってくれている以上に、

すごく好きなんだと思う―――。



「――十代目、もしよかったらなんですが、今日マック寄って帰りませんか?」

「うん、いいね!俺、新作のバーガー食べてみたいと思ってたんだ」

「じゃあ決まりですね!」


いつもの帰り道。

でもちょっと特別な、ふたりだけの時間。

何とは無しに君がくれた言葉に、「プチデートだ…」なんて思ってしまう俺は

大概乙女ちっくなのかもしれない。

君がどう思って俺を誘ってくれたかまでは分からないけど、

それでも、俺は君と一緒に過ごす時間を、とてもしあわせだと思うんだ。


「――あっ、十代目、あそこの席空いてますよ!

俺買ってきちゃいますから、先に座っててくださいね!」

「えっ?ちょっと、獄寺くん……!」


人の返事も聞かずに、あっという間にレジに向かう君の後ろ姿を見て、

(………あぁ、この人が俺の恋人なんだ)

って、気持ちがふわりとあたたかくなる。

うれしさに、心が跳ねる。




(ちょっと混んでるな……)

席について辺りを見渡すと、近隣の中学の生徒や高校生達までいて、店内はなかなか混雑していた。

それでもうまいこと席を確保できてホッとする。

最近では店に入って食事をしたりすることは、ほとんど無くなっていた。

もしどこかに寄るとしたら、ゲーセンか本屋か。

(………まぁ、獄寺くん家が一番多い、のかもしれない……)

特に何をするわけでもなく、ふたりで一緒にジュースを飲んだり、

今日あったことをしゃべり合ったり、ソファーにくっついて座ったり、

そしてたまにキスをしたりする。


獄寺くんのするキスは必ずと言っていいほど音がする。

チュって、高いリップノイズ。

それだけで、あぁこのひとはイタリア人なんだなぁ……なんてつくづく思ったりする。

その時の君の視線が恥ずかしくて、身体中に刺さって、皮膚が煮えてとろけてしまいそうだと思う。



「十代目、お待たせしました!

飲み物はコーラでよかったですか?」

ヘンな事を思い出して赤くなっていたら、目の前に獄寺くんがいて心臓が飛び出そうになった。

「う、うん、ありがとう…!

ごめんね、俺の分も買いに行かせちゃって……。お金、いくらだった?」

「! いえいえ、金のことなんか気にしないでください。

今日は俺のおごりッスから!腹いっぱい食べてくださいね♪」

「――えぇっ!?

そんな訳にはいかないよ…!この前も君、俺にジュースおごってくれたじゃん…!」

「それなら俺だって、先日ケーキご馳走になりましたよ?これでおあいこです!」

「……いや、あれは母さんが持たせてくれたヤツなんだけど……」

「まぁいいじゃないっすか!ほらポテトがしなびちゃいますよ?

――ね?食べましょ〜」


(う〜ん…。こうなると獄寺くん折れないんだよなぁ……。

なんて言うか、俺甘やかされすぎだよな……)


どうぞどうぞと進められて口に入れたポテトは

揚げたてでほっこりしていて、すごくおいしかった。

「…うん、おいしい!」

にっこり笑って彼を見れば、獄寺くんがじっと俺の方を見ていて、

その柔らかい優しい視線に、心臓がひとつ大きく跳ねた。

(うっ、うわぁ、うわあ、うわあぁ…!!

反則だよ、こんなの……!)

俺は視線を合わせられなくなって、耳まで赤くして顔を伏せた、


――その時、視界の隅に何かが映った。

ふと視線を向けると、フロアの隅からこちらを見ている女の子達がいた。

3〜4人くらいの、中学生の女の子のグループ。

顔を寄せてこそこそと話をしている。

制服がハルとおんなじ緑中のものだった。

何となく嫌な予感がして、ちらりと周りを見渡したら

その子達とおんなじようにこちらを見ている女子のグループが3つほど……。


(やばい……、さっきの見られた?、よね……)


見られて困るのは耳を赤くしてる俺、なんてことはなくて、

目の前の恋人が時々見せる、あの優しくて柔らかい、特別な笑顔だ。


(はぁ、もう…。このごろはこういう所来てなかったからなぁ。

……油断してた)


それからはただ必死に目の前のものにパクつくことに集中した。

獄寺くんが何かいろいろしゃべってたけど、あんまり頭に入ってこなかった。


(とりあえず、食べ終わったらダッシュして店を出なきゃ……!)


のんびりしてたら声を掛けてくる子がいるかもしれない。

せっかくのデートなのに……、本当はもっとゆっくりしたかったよ…――!




店を出ると空が赤い炎みたいに染まっていて、

そんな熱い色の下、川沿いの遊歩道を並んで歩いた。


俺は終始無言だった。


嫌なことが、考えたくないことが、あの店を出る前から頭の中をちらついて、

心が氷に当てられたみたいに、急激に冷えていった。

寒い訳じゃないのに、身体の底から震えが来て鳥肌が立った。


―――本当は気づいてた。


俺がこの恋を怖がっていたこと…。

この関係が、いつまで続くんだろうって、いつまで一緒にいられるんだろうって。

いつまで君は、俺を見ていてくれるんだろうって、

不安に思っていたこと……。


君は男の俺の隣なんかにいなくても、きっとたくさんの女の子達が、君の隣を欲しがる。

こんなに優しくて、あったかい人を、他の子達が放っておくわけが無い。


もし、君にもっといい人が現れて、俺の方を見てくれなくなったら、

俺の方を向いてくれなくなったら、俺は普通にしていられるだろうか……。

他の人を選んだ君を、笑顔で送り出してあげることが出来るだろうか……。


川沿いの空気は少し冷たくて、ふわりと舞い上がると頬をかすめて

背後の景色に溶けていった。

君の片頬がオレンジ色に染まっていた。


ふと見上げた俺を、灰緑に赤を混ぜた瞳で見つめ返される。


………あぁ、きれいだな――。


君はいつまで、その瞳に俺を映してくれるんだろう……。

君はいつまで、俺の隣にいてくれるんだろう………。



「―――十代目………?

どうしたんですか?どこか痛いんですか?」


ふいに君が俺の両肩を掴んできて、俺は「……へ?」と間抜けな声を上げてしまった。

やさしい人のゆびが、頬を撫でる感触。


「あっ……」

「涙が出てます………。泣かないで、十代目」


頬を往復する、あたたかい指。

痛そうに眇められた瞳。


(―――あぁ、俺、本当にこの人が好きなんだな………)


止まらない涙と、傷む心臓。

心が真っ赤に染まって、身体ごと夕日に溶けてしまいそうだと思った。

君を、ずっと見ていたいと思った。

どうか、どうか……、許されるのならば、この先ずっと……―――。





視界が曇って、君の顔が見えなくて、

君のことを見ていたいのに、でもどうしていいのか分からなくて、

祈るように瞳を伏せたら、ふと目じりにあたたかい熱を感じた。


それから頬と、顎と、おでこと、鼻の先と、耳元に―――。

チュっと、高いリップノイズ。

普段なら「外でキスはダメね!」なんて言ってるくせに、

ただ、君のくれるその熱が愛おしかった、嬉しかった。

無償の優しさ。

あたたかい、君の気持ち―――。


ゆっくり目を開けると、すぐ近くに君の顔があった。

ただそれだけで、心と身体が熱を持つ。


「十代目、俺は何も聞きません。話してくれなくてもいいんです。

……ただ、つらい時は俺を頼ってくれてもいいんですよ……?

そばにいられない時も、心はあなたの方を向いています。俺はずっと一緒です。

あなたが俺を必要としてくれる限り、俺はあなたの心に寄り添って生きていきたい…―――」


普段では聞き慣れない愛の言葉に、俺はただ、目の前のものを確かめるようにまばたきを繰り返した。

君の目が眇められて、柔らかい色のあの瞳が己に向けられる。


「あなたが俺を愛してくれる限り、俺はあなたを、いつまでも愛しています。

俺の、愛しい十代目―――」


最後に軽くふれて去ってゆく、唇への熱。


(………あぁ。

俺は何で信じられなかったんだろう。

君のことを、君の心を)


「――――ごめんね、獄寺くん……」

「……? はい?」


さっきまですごい男前だったのに。

急に子供みたいな顔してる。

目がこぼれ落ちそうだよ……?


「君はいつも俺の欲しいものをくれるね―――。

………ありがとう、大事にするね」


ちょっと人目が気になったけど、そんなの今だけは取っ払っちゃって、

おもいっきり君の首に抱きついて、頬にキスをしてやった。


「―――!? なっ…! じゅ、じゅうだいめ……!?」


さっきまで俺の顔じゅうにキスをしてたくせに、首まで真っ赤にしてうろたえてる。

ホント変なとこかわいいんだから。


「帰ろう?

俺、今日は君んち泊まろうかな。明日は土曜でガッコも無いし、………ね?」

「……!!?」


俺は「うぁ…?」とか「えぇぇ〜?」とか言ってる獄寺くんの腕を取って

前へと歩きだした。


そうだよね、この広い世界の中から、君は俺を見つけて選んでくれたんだもん―――。

俺もずっと君の心を感じて、寄り添って生きて行きたい。



もう迷わないよ。

俺は、信じてる。


君と、俺の心を――――。





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